成年後見制度とは
成年後見制度とは、どのような制度でしょうか。
精神上の障がいにより、判断能力がない方や不十分な方(認知症の高齢者、知的障がい者、精神障がい者など)について、契約の締結等を代わって行う代理人など、本人を援助する人を選任したり、本人が誤った判断に基づいて契約を締結した場合に、それを取り消すことが出来るようにすることなどにより、これら意思決定が困難な方を保護する制度です。
そして、これらの人々の生命、身体、自由、財産等の権利を擁護することを目指しています。
例えば、こんな場面で成年後見制度は役立ちます。
A子さんは80歳です。
3年位前から物忘れが目立つようになりました。
同居している長女が心配し、病院で診察したところ、認知症であることがわかりました。
A子さんは半年前に自宅で転んで足の骨を折ってしまい、病院で手術を受けた後、今は一時的に介護老人保健施設に入所しています。
長女は、病院や施設の費用を自分の預貯金から支払ってきましたが、この先のA子さんの生活や介護を考えると、たいへんなお金がかかるかも知れず、不安になりました。
A子さんが受け取っている年金やこれまで蓄えてきた預貯金を、A子さんの生活や介護に充てたいと考えますが、認知症が進んでしまったA子さんは、その判断や手続きが出来ません。
長女がA子さんの預金口座がある銀行に相談したところ、成年後見制度の利用を勧められました。
長女は、家庭裁判所へ行って申立ての方法を聞き、必要な書類を準備して、後見開始の申立てをしました。
その後、必要な調査を経て、A子さんについて後見を開始し、長女を成年後見人に選任する審判がなされました。
A子さんは施設を出て、一度自宅に戻りましたが、介護困難となり、今は有料老人ホームで暮らしています。
長女はA子さんに面会して、様子を見守っています。
また、老人ホームの費用、A子さんの小遣い等は、A子さんの年金、預貯金等から支出できるようになり、長女は金銭出納帳をつけて家庭裁判所に定期的に報告をし、A子さんの財産の収支を管理しています。
成年後見制度には、法定後見制度と任意後見制度の2種類があり、また、法定後見制度には、後見、保佐、補助の3つの類型があります。
成年後見・手続き情報
根拠法令 | 民法 |
手続き窓口 | 法定後見は家庭裁判所 任意後見は公証人役場 |
費用 | 法定後見は約1万円。 任意後見は内容により異なります。 |
その他 | 参考リンク集 福祉・成年後見Q&A 報酬目安表 |
法定後見制度とは
法定後見制度(法律による後見の制度)
後見
判断能力が全くない場合に、家庭裁判所が後見開始の審判をして、成年後見人を選びます。
保佐
判断能力が特に不十分な場合に、家庭裁判所が保佐開始の審判をして、保佐人を選びます。
補助
判断能力が不十分な場合に、家庭裁判所が補助開始の審判をして、補助人を選びます。
法定後見3種のうちの「後見」とは
後見とは、精神上の障がい(認知症、知的障がい、精神障がいなど)により、判断能力が欠けているのが通常の状態にある方を保護・支援するための制度です。
判断能力が欠けているのが通常の状態とは、例えば、
・通常は、日常の買い物も自分では出来ず、誰かに代わってやってもらう必要がある人。
・ごく日常的な事柄(家族の名前、自分の居場所等)が分からなくなっている人。
・完全な植物状態(遷延性意識障害の状態)にある人
をいいます。
この制度を利用すると、家庭裁判所が選任した成年後見人が、本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人または成年後見人が、本人がした不利益な法律行為を後から取り消すことが出来ます。
ただし、自己決定権尊重の観点から、日用品の購入など、「日常生活に関する行為」については、取消しの対象になりません。
後見開始の事例
本人は5年前から物忘れがひどくなり、勤務先の直属の部下を見ても誰かわからなくなるなど、次第に社会生活を送ることができなくなりました。
日常生活においても、家族の判別がつかなくなり、その症状は重くなる一方で、回復の見込みはなく、2年前から入院しています。
ある日、本人の弟が突然事故死し、本人が弟の財産を相続することになりました。
弟には負債しか残されておらず、困った本人の妻が相続放棄のために、後見開始の審判を申し立てました。
家庭裁判所の審理を経て、本人について後見が開始され、夫の財産管理や身上監護をこれまで事実上担ってきた妻が成年後見人に選任され、妻は相続放棄の手続きをしました。
法定後見3種のうちの「保佐」とは
保佐とは、精神上の障がい(認知症、知的障がい、精神障がいなど)により、判断能力が著しく不十分な方を保護・支援するための制度です。
判断能力が著しく不十分な状態とは、例えば
・日常の買い物程度は自分で出来るが、重要な財産行為は自分では適切に行うことができず、常に他人の援助を受ける必要がある(誰かに代わってやってもらう必要がある)人。
・いわゆる「まだら呆け」(ある事柄はよく分かるが、他のことは全く分からない人と、日によって普通の日と認知症の症状等が出る日がある人の両方を含む)の中で、重度の人。
をいいます。
この制度を利用すると、お金を借りたり、保証人となったり、不動産を売買するなど法律で定められた一定の行為について、家庭裁判所が選任した保佐人の同意を得ることが必要になります。
保佐人の同意を得ないでした行為については、本人または保佐人が後から取り消すことができます。
ただし、自己決定権の尊重の観点から、日用品の購入など「日常生活に関する行為」については、保佐人の同意は必要なく、取り消しの対象にもなりません。
また、家庭裁判所の審判によって、保佐人の同意権・取消権の範囲を広げたり、特定の法律行為について保佐人に代理権を与えることもできます。
保佐開始の事例
本人は1年前かに夫を亡くしてから一人暮らしをしていました。 以前から物忘れが見られましたが、最近症状が進み、買い物の際に1万円札を出したか5千円札を出したか、分からなくなることが多くなり、日常生活に支障が出てきたため、長男家族と同居することになりました。
隣県に住む長男は、本人が住んでいた自宅が老朽化しているため、この際自宅の土地、建物を売りたいと考えて、保佐開始の審判の申立てをし、併せて土地、建物を売却することについて代理権付与の審判の申立てをしました。
家庭裁判所の審理を経て、本人について保佐が開始され、長男が保佐人に選任されました。
長男は、家庭裁判所から居住用不動産の処分についての許可の審判を受け、本人の自宅を売却する手続きを進めました。
法定後見3種のうちの「補助」とは
補助とは、軽度の精神上の障がい(認知症、知的障がい、精神障がいなど)により、判断能力の不十分な方を保護・支援するための制度です。
軽度の精神上の障がいとは、例えば
・重要な財産行為について、自分でできるかもしれないが、適切にできるかどうか危惧がある(本人の利益のためには、誰かに代わってやってもらったほうがよい)人。
・いわゆる「まだら呆け」の中で軽度の人。
をいいます。
この制度を利用すると、家庭裁判所の審判によって、特定の法律行為について、家庭裁判所が選任した補助人に同意権・取消権や代理権を与えることが出来ます。
ただし、自己決定権尊重の観点から、日用品の購入など「日常生活に関する行為」については、補助人の同意は必要なく、取り消しの対象にもなりません。
また、補助の申立てには、本人の同意が必要なことになっています。
補助開始の事例
本人は、最近米を研がずに炊いてしまうなど、家事の失敗がみられるようになり、また、長男が日中仕事で留守の間に、訪問販売員から必要のない高額の呉服を何枚も購入してしまいました。
困った長男が家庭裁判所に補助開始の審判の申立てをし、併せて本人が10万円以上の商品を購入することについて同意権付与の審判の申立てをしました。
家庭裁判所の審理を経て、本人について補助が開始され、長男が補助人に選任されて同意権が与えられました。
その結果、本人が長男に断りなく10万円以上の商品を購入してしまった場合には、長男がその契約を取り消すことが出来るようになりました。
後見・保佐・補助の主な違い
法定後見には、後見・保佐・補助と3種類ありますが、ここは、それらの違いを、簡単にまとめてみました。
後見 | 保佐 | 補助 | |
対象となる方(本人) | 判断能力が全くない方 | 判断能力が特に不十分な方 | 判断能力が不十分な方 |
申立てが出来る人 | 本人、配偶者、親や子、孫など直系の親族をはじめ、兄弟姉妹、おじ、おば、甥、姪、いとこ、配偶者の親・子・兄弟姉妹等 | ||
申立てについての本人の同意 | 不要 | 不要 | 必要 |
医師による精神鑑定 | 原則として必要 | 必要 | 原則として不要 |
成年後見人等が同意し又は取り消すことが出来る行為 | 日常の買い物などの生活に関する行為以外の行為 | 重要な財産関係の権利を得喪する行為等(民法13条1項記載の行為) | 申立ての範囲内で裁判所が定める行為(民法第13条1項記載の行為の一部に限る。本人の同意が必要) |
成年後見人等に与えられる代理権 | 財産に関するすべての法律行為 | 申立ての範囲内で裁判所が定める行為(本人の同意が必要) | 申立ての範囲内で裁判所が定める行為(本人の同意が必要) |
本人の判断能力の程度が後見、補佐、補助の3類型のどれに該当するか分かりづらい場合は、申立ての段階では、診断書の内容に対応する類型の申立てをすれば大丈夫です。
申立て後に行われる鑑定等の結果によって、申立て時とは異なる類型の審判がなされることもありますが、その場合、申立人には、「申立ての趣旨変更」と言う手続き(簡便な手続きで す。)をとってもらうことになります。
※民法13条1項記載の法律行為とは。
1、利息や賃料等を生み出す財産を受領し、又はまたはその財 産を貸したりすることにより利用する行為を行うこと。
2、借金をしたり、保証人になること。
3、不動産その他重要な財産に関する権利について、売買するなどこれを取得したり手放したりすることになる行為を行うこと。
4、原告として訴訟行為を行うこと。
5、贈与、和解または仲裁契約を結ぶこと。
6、相続を承認したり放棄すること、または遺産分割の協議を行うこと。
7、贈与の申し出あるいは遺贈を断り、または負担付きの贈与あるいは遺贈を受けること。
8、新築、改築、増築または大修繕を行うこと。
9、建物については3年、土地については5年を超える期間の賃貸借契約をすること。
法定後見の申し立て手続き
本人や関係者が家庭裁判所に、後見(保佐、補助)開始の審判を求める申立てをします。
後見開始、保佐開始、補助開始のいずれを求めるかは、医師の診断書を参考にして決めます。
家庭裁判所は、必要な調査や鑑定を行った後、後見(保佐、補助)を開始する審判をし、あわせて、本人を法的に援助する人(後見人、保佐人、補助人)を選任します。
※申立てが出来る関係者・・・配偶者、四親等内の親族、市町村長、検察官など
※審判・・・家庭裁判所が出す判断、決定。その内容が記された書面を「審判書」といいます。
※申立てをする裁判所・・・本人の住所地(住民票がある所)もしくは居住地(実際に暮らしている場所)を管轄する家庭裁判所
法定後見の申し立てに必要な費用
後見の場合を例に説明します。
法定後見開始までにかかる費用
・申立て手数料:800円(収入印紙で納めます)
・登記手数料:2,600円(登記印紙で納めます)
・その他手数料:郵便切手代2,980円(保佐・補助は4,300円)
・鑑定料(50,000~100,000円)
・専門家に手続きを依頼した場合、その手数料
※これらの申し立て費用は、原則『申立人の負担』となっています。
法定後見開始後の後見人に対する報酬
・家庭裁判所が本人の資力(財産や収入)から判断して、その報酬額を審判により決定します。
法定後見の申し立て必要書類
1、申立人
・申立書
・戸籍謄本
・申立人照会書
2、本人
・戸籍謄本
・戸籍附票又は住民票
・登記されていないことの証明書
・医師の診断書及び診断書附票(家庭裁判所所定の様式)
・本人照会書
・財産目録
・財産や収支を裏付ける資料
・土地、建物・・・固定資産評価証明書など
・預貯金・・・通帳のコピー、証書のコピーなど
・株式等・・・取引残高証明書、証券のコピーなど
・生命保険等・・・保険証書のコピーなど
・負債・・・借金の残高や返済期間等が分かる資料のコピー
・収入・・・年金の通知書のコピー、給与証明書、不動産賃貸借契約書のコピーなど
・支出・・・施設利用料、入院費等の領収書のコピー、健康保険料、介護保険料、固定資産税等の通知書等のコピー、家賃、地代の領収書のコピーなど
・判定書(知的障がい者の場合のみ)
・親族一覧表、親族の同意書(必ずしも必要ではありません。)
3、後見人等候補者
・戸籍謄本
・戸籍附票又は住民票
・身分証明書
・登記されていないことの証明書
・法人の場合、登記簿謄本又は登記事項証明書
・後見人等候補者照会書
※裁判所により異なる場合がありますので、事前に管轄する家庭裁判所にご確認ください。
法定後見の申し立てから後見人決定までの流れ
申立手続きの流れを説明します。
1、手続き相談 | 家庭裁判所の受付で手続き相談をします。この相談の際、申立てに必要な書式一式(封筒セット)がもらえます。 |
2、申し立て前の準備 | 申立てに必要な書類の取り寄せや作成を行います。後見人(保佐人、補助人)の候補者に適当な方がいない場合は、事前に弁護士、司法書士、行政書士、社会福祉士等の専門家に相談するか、申立て時にその旨を家庭裁判所に相談してください。 |
3、申立て | 用意した書類を家庭裁判所の受付に提出してください。 |
4、調査 | 精神鑑定、申立人調査、後見人等候補者調査、本人調査、親族への意向照会 |
5、鑑定書受理 | 鑑定が不要な場合がありますので、裁判所の指示があるまで鑑定をする必要はありません。 |
6、審理 | 提出された書類、調査結果、鑑定結果等の内容を検討します。裁判官が直接、事情を確認することもあります。 |
7、審判 | 成年後見人等が選ばれます。「審判書謄本」が申立人・成年後見人等に送られます。 |
8、審判確定と登記 | 成年後見人等が「審判書謄本」を受け取ってから2週間(長かったり短かったりします)が経過した後に審判が確定します。 |
9、後見監督 | 成年後見人等から定期的に財産管理状況等の報告を家庭裁判所が受け、後見事務に問題がないかを確認します。 |
法定後見における後見人の職務
はじめの仕事
・審判が確定し、東京法務局で登記された後、家庭裁判所から成年後見人(保佐人、補助人)に選任された人に対し、「成年後見人(保佐人、補助人)に職務について」という書面が送 られます。
・成年後見人は、それからおおむね1ヶ月以内に、財産目録と後見事務計画書を作り、家庭裁判所に提出するとともに、年間収支の予定を立てなければなりません。
※成年後見人は、法律上、財産目録を家庭裁判所に提出しないと、成年後見人としての事務が出来ませんので、注意が必要です。
・家庭裁判所は、保佐人や補助人の方にも、財産目録の作成・提出を求めることがあります。
・申立人が成年後見人等に選任される場合、申立て時と選任後の2度、財産目録を提出することになります。
申立て時に提出する財産目録は後見等開始の審理のためのものであるのに対し、選任後に提出する財産目録は、本人の財産をまさに成年後見人等が管理を始めたことの資料になり、同時に後見人等監督の資料になるものですから、手数でも必ず提出してください。
申立て時に作成した財産目録のコピーを保存しておくと、選任後、それをもとにしてそれほど苦労なく財産目録を作ることができます。
成年後見人(保佐人、補助人)の主な仕事
成年後見人、保佐人、補助人に共通すること
・成年後見人(保佐人、補助人)は、申立てのきっかけになったこと(例えば、保険金の受け取りや預貯金の引き出し、遺産分割協議など)が終わったあとも、本人を法的に保護しなければなりません。
・本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、財産管理などの事務を行ってください。
・本人を保護することが成年後見人(保佐人、補助人)の仕事ですので、成年後見人(保佐人、補助人)は、本人の利益に反して本人の財産を処分(売却や贈与など)してはなりません。
・成年後見人(保佐人、補助人)は、家庭裁判所から求められたときに、財産管理などの事務の状況を報告しなければなりません。
成年後見人の主な仕事
・成年後見人は、本人の財産の全般的な管理権とともに、代理権を有します。
つまり、預貯金に関する取引、必要な費用の支払い等の財産管理と、医療や介護に関する契約等の身上監護について、本人を代理して事務や契約を行うことになります。
・また、成年後見人は、本人が行った契約などを取り消すことができます。
保佐人の主な仕事
・保佐人の仕事は、本人の預貯金の払い戻し、不動産の売買、金銭の借り入れ等、財産に関する重要な行為を行う際に同意することや、本人が保佐人の同意を得ないでした行為を取り消すことです。
・また、審判で認められたことについて本人の代理をすることができます。
補助人の主な仕事
・補助人の仕事は、審判で認められたことについて、本人に同意を与えたり、本人が補助人の同意を得ないでした行為を取り消すことです。
・また、審判で認められたことについて本人の代理をすることができます。
財産管理をする上での注意点
・預貯金口座名義に注意してください。本人の財産を預貯金等で管理する場合は、本人名義とするか、あるいは、「山田花子の成年後見人山田太郎」名義などとしてください。成年後見人等の個人の名義で管理をすると、本人と後見人等の財産の見分けがつかなくなってしまいます。絶対にしないでください。
一番多いのは、本人が受け取るはずの交通事故賠償金を、後見人口座(上記の例でいえば、山田太郎の口座に振り込むこと)に振り込ませてしまい、そのお金で、後見人名義で自動車や不動産を取得するなどです。これをやると、場合によっては、新たな後見人を裁判所が選んで、元の後見人を訴えることになりかねません。
・収支管理の工夫
成年後見人(保佐人、補助人)は、家庭裁判所から求められた時に、財産管理などの事務の状況を報告しなければなりません。
その時に困らないよう、日ごろから金銭出納帳をつけるなどして収支を記録し、また、高額な領収書などはきちんと保管しておいてください。
・その他注意すること
本人の利益に反して、本人の財産を処分(売却、贈与、貸付等)してはなりません。
また、株への投資などの投機的運用は避けてください。
法定後見で家庭裁判所の許可が必要となる事務
成年後見人等がその事務を遂行するにあたり、事前に家庭裁判所の許可が必要な事務とはなんでしょうか。
・居住用不動産処分の許可
本人が居住するための建物または敷地(現在住んでいる場合だけでなく、現在生活している施設等を出た時に住むべきものを含む)について、売却、賃貸借、抵当権設定等をする場合には、事前に、「居住用不動産の処分許可の申立て」が必要です。
・特別代理人(臨時保佐人、臨時補助人)の選任の申立て
本人と成年後見人等の利益が相反する場合(利益相反行為といいます)は、事前に、「特別代理人(臨時保佐人、臨時補助人)の選任の申立てが必要です。
※利益相反行為とは
例えば、本人と成年後見人等がいずれも相続人である場合(本人と成年後見人等が兄弟で、亡くなった親についての遺産分割協議をする場合など)や、成年後見人等が本人名義の不動産を買い取る場合などです。
・その他、許可に当てはまらない事務であっても、収支予定にない収入や支出、金額が高額になるものは、事前に家庭裁判所への相談、伺いをしておいた方が万全です。
法定後見の後見人への費用と報酬の扱い
後見(保佐、補助)事務を行うために必要な費用は、成年後見人等が本人の財産から支出します。
成年後見人等は、家庭裁判所に報酬付与の審判を申し立てて認められれば、本人の財産から審判で決められた報酬を受け取ることができます。
家庭裁判所は、報酬額を決める際に、成年後見人等が行った仕事の内容、本人の資力などを考慮します。
報酬付与の審判は第三者に限らず、親族が成年後見人等である場合も申し立てることが出来ます。
家庭裁判所の報酬付与が認められない段階で、勝手に報酬を差し引かないように注意してください。
法定後見における後見(保佐・補助)監督とは
後見人(保佐人、補助人)は、家庭裁判所の監督を受けることになり、場合によっては、後見(保佐、補助)監督人が付けられることがあります。
その後見(保佐、補助)監督とは、成年後見人(保佐人、補助人)の事務が円滑に正しく行われるよう、家庭裁判所または後見(保佐、補助)監督人が定期的に成年後見人から後見等事務の報告を受け、事務に問題がないかを確認し、問題がある場合には、改善を求めることです。
成年後見人等が本人の財産をみずからのために使うなど不正な行為をした時は、家庭裁判所が成年後見人等を解任することがあります。
また、本人の財産に損害を与えた成年後見人等は、その損害を賠償しなければなりません。
悪質な不正行為があった場合には、業務上横領等の刑事責任を問われることもあります。
法定後見が終了するとき
成年後見人等の仕事は、どのように終わるのでしょうか。
・本人が死亡した時
本人が死亡した時には、成年後見人(保佐人、補助人)の仕事は終わります。
この時、成年後見人等は、本人が死亡してから2ヶ月以内に、管理していた財産の収支を計算し、その現状を家庭裁判所に報告し、管理していた財産を本人の相続人に引き継がなければなりません。
・後見人等の辞任
病気などのやむを得ない事情があり、成年後見人(保佐人、補助人)が事務を続けるのが困難になった場合は、家庭裁判所の許可を得て、辞任することが出来ます。
その際、成年後見人(保佐人、補助人)辞任許可の申立てが必要です。
辞任が許可され、新たな成年後見人等が選任された場合は、新たな成年後見人等に引継ぎを行うことになります。
任意後見制度とは
任意後見制度(契約による後見の制度)
本人が判断能力のある間に、判断能力が将来不十分な状態になる場合に備えて、公正証書を作成して任意後見契約を結んで、任意後見人を選んでおきます。
判断能力が不十分になったら、申立てをして、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から、任意後見契約の効力が生じます。
任意後見制度には、いつから、財産管理等をお願いするかによって、3つの種類があります。
任意後見・種類
任意後見制度には、いつから財産管理等をお願いするかによって、3つの種類があります。
・即効型
任意後見契約後、すぐに契約内容が開始され、任意後見が始まります。
しかし、任意後見契約締結の際に、意思能力に疑問のある人については、本人保護および契約締結能力の存否をめぐる困難な紛争を避ける見地から、できる限り法定後見を選択すべきでしょう。
・将来型
任意後見契約後、判断能力が低下した時に申立てをし、任意後見が始まります。
これが、一番、任意後見らしい形です。
・移行型
任意後見契約の他、財産管理委任契約を結んでおき、判断能力が低下する前は委任契約、低下後は任意後見契約を発効する契約を結びます。
財産管理委任契約
財産管理契約委任契約とは、委任者(本人)が受任者に対し、自己の財産の管理に関する事務の全部または一部についての代理権を付与する委任契約で、その事務が誠実に行われているかどうかは、委任者(本人)が管理します。
任意後見契約は、本人が任意後見受任者に対し、自己の財産の管理に関する事務の全部または一部についての代理権を付与する委任契約で、本人は、すでに判断能力が低下しているため、そんな本人に代わって、任意後見監督人が、その事務を管理します。
この2つを併用することで、
ご本人が
・元気なうちは、任意後見予定者に財産管理委任契約に基づいて財産を管理してもらい
・判断能力が衰えたら、任意後見契約を発動させ、後見契約に基づいて財産を管理してもらう
という契約が可能になります。
財産管理委任契約の中で、ご本人の判断能力の状態がわかり、また、本人の望む人生を元気なうちに把握できますので、それを後々の後見業務の時に役立てることができます。
任意後見・手続き
任意後見は、法定後見とは違い、本人が元気なうちに、後見人受任者と契約を結ぶ必要があります。
本人は、自ら選んだ任意後見受任者に対し、精神上の障がいにより判断能力が低下した状況における自己の生活、療養看護および財産管理に関する事務の全部または一部について代理権を付与する委任契約を結びます。
それには、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から契約の効力が発生する旨の特約を付けます。
任意後見契約は、適法かつ有効な契約の締結を確実なものにするため、公証人の作成する、公正証書にする必要があります。
任意後見にかかる費用
任意後見には、どのような費用が発生するのでしょうか。
任意後見契約時
・公正証書作成の手数料:契約の種類、枚数等によります。(一契約11,000円。3枚を超えたら(横書証書は4枚)1枚ごとに250円加算)
・登記手数料嘱託手数料:1,400円
・登記手数料:2,600円(登記印紙で納めます)
・その他手数料:郵便切手代約540円
※ケースにより、大幅に異なります。
任意後見監督人選任の申立て時
・収入印紙:800円
・郵便切手:3,000円位
・登記印紙:1,400円
・専門家に手続きを依頼した場合、その手数料
・任意後見開始後の後見人に対する報酬:本人と、任意後見受任者の間で、自由に決めます。
任意後見監督人への報酬
・家庭裁判所が本人の資力(財産や収入)から判断して、その報酬額を決定します。
任意後見開始の申し立て必要書類
任意後見には、公正証書で契約を結ぶほか、効力を発生させる時に(本人の判断能力が不十分になった時、ただし、原則、鑑定は必要ありません)、任意後見監督人を選任してもらう手続きが必要になります。
その時に必要な書類は次のとおりです。
1、申立人
・申立書
・戸籍謄本(本人以外が申し立てる時)
2、本人
・任意後見契約公正証書写し(正本のコピーで可)
・戸籍謄本
・住民票、または戸籍の附票
・登記されていないことの証明書又は登記事項証明書
・診断書
・財産目録
・本人の収支状況報告書
3、任意後見監督人候補者
・戸籍謄本
・住民票の写し
・身分証明書
・登記されていないことの証明書
・法人であるときは商業登記事項証明書
・任意後見監督人候補者事情説明書
4、任意後見受任者
・登記されていないことの証明書
・身分証明書
・任意後見受任者事情説明書
※裁判所により異なる場合がありますので、事前に管轄する家庭裁判所にご確認ください。
任意後見の契約から後見の開始まで
任意後見の手続きの流れを、簡単にご紹介します。
1、任意後見契約を締結
本人は、自ら選んだ任意後見受任者に対し、精神上の障がいにより判断能力が低下した状況における自己の生活、療養看護および財産管理に関する事務の全部または一部について代理権を付与する委任契約を結びます。
2、登記
任意後見契約は、契約締結してあることがわかるように、法務局に登記されます。
3、任意後見監督人の選任
任意後見契約が登記されている場合において、精神上の障がいにより本人の判断能力が低下した場合、任意後見受任者に不適切な事由がある場合を除き、家庭裁判所は、本人、配偶者、4親等内の親族または任意後見受任者の申立てにより、任意後見監督人を選任します。
任意後見監督人の選任は、本人の申立てでない場合は、本人の同意を要件とします。
任意後見人の職務
任意後見人のすることは、本人が自己の意思で必要と判断し、任意後見契約で委託した事務です。
このために任意後見人に与えた代理権は、代理権目録に記載され、これに記載されていない事項については、任意後見人は代理できません。
ただし、婚姻等身分関係で代理になじまないもの、本人の意思表示・同意・承諾等が必要な行為(医療同意、臓器移植の同意等)、強制を伴う行為(入院、施設入所等の強制)の同意については、後見人に代理権を与えることはできませんし、介護等の事実行為についても、代理権を付与することはできません。
代理権を与えることができる行為は、次のようなものであるとされ、これ以外の代理権の付与については、認められ難いとされています。
1、日常生活、社会生活、福祉に関する事項(生活用品の購入、電気、ガス料金等の支払い、介護サービスの利用契約、入院、医療契約、福祉関係施設への入所契約など)
2、財産の管理、保存、処分に関する事項(金銭管理、金融機関との取引、不動産の取引・管理、相続手続きなど)
3、司法手続き、公的機関に対する手続きに関する事項(行政機関が発行する証明書等の取得、税金の申告、訴訟行為など)
4、委任事務遂行に関する事項(複代理人の選任、証書類の保管・使用、事務処理費用の支払いなど)
なお、任意後見契約が発効しても、本人に意思能力があれば、本人が自ら法律行為を行うことができ、任意後見人には、本人が行った法律行為についての取消権はありません。
任意後見監督人の職務
任意後見監督人のすることは、次のとおりです。
1、任意後見人の事務を監督すること。
2、任意後見人の事務に関し、家庭裁判所に定期的に報告すること。
3、急迫の事情がある場合に、任意後見人の代理権の範囲内において、必要な処分をすること。
4、任意後見人と本人の利益が相反する行為について本人を代表すること。
なお、任意後見監督人は、いつでも、任意後見人に対し任意後見事務の報告を求め、又は任意後見人の事務若しくは本人の財産状況を調査することができます。
また、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、任意後見監督人に対し、任意後見人の事務の報告を求め、任意後見人の事務若しくは本人の財産の状況の調査を命じ、その他任意後見監督人の職務について必要な処分を命じることができます。
任意後見人と監督人の費用と報酬
任意後見人の費用と報酬は、どのように処理するのでしょうか。
任意後見事務を行うために必要な任意後見人の費用は、任意後見契約の中でどうするか定めておきます。
成年後見人等が本人の財産から支出します。
任意後見監督人は、家庭裁判所に報酬付与の審判を申し立てて認められれば、本人の財産から審判で決められた報酬を受け取ることができます。
家庭裁判所は、報酬額を決める際に、本人の資力などを考慮します。
報酬付与の審判は第三者に限らず、親族が成年後見人等である場合も申し立てることが出来ます。
家庭裁判所の報酬付与が認められない段階で、勝手に報酬を差し引かないように注意してください。
任意後見の終了
任意後見は、どのように終了するのでしょうか。
任意後見人は、正当な事由がある場合は、家庭裁判所の許可を得て、辞任することが出来ます。
任意後見人に不正な行為、著しい不行跡その他任務に適さない事由があるときは、任意後見監督人、本人、その親族又は検察官の申立てにより解任することができます。
また、次の場合は、当然に終了します。
1、任意後見人の解任
2、成年後見の開始
3、契約当事者の死亡・破産等
任意後見と死後の備え
任意後見が、本人の死亡によって終了した場合、その後の処理は、どうなるでしょうか。
任意後見人の事務は、任意後見管理の計算と管理財産の引渡しが中心となり、葬儀、埋葬や、それに伴う支払い、また、相続等の手続きは、本来、相続人の仕事となります。
しかし、相続人がいない、疎遠などの理由で手続きが出来ない場合に備え、本人死亡後の事務に関する委任契約を結んだり、遺言をしておくとよいでしょう。
また、急迫な事情がある事項は、委任契約を結んでいなくても、応急処置として、任意後見受任者が処理することができます。
親亡き後の備え
成年後見制度は、一般的には、判断能力のある人が、高齢になるにつれ、その判断能力が衰えてきた場合に利用される制度と思われがちです。
しかしながら、知的障がい、精神障がいなど、若いうち、もしかしたら幼いうちから判断能力が低い、もしくは無い人もいらっしゃいます。
高齢になってから、後見制度を利用される場合は、サポートしてくれる後見人等も、判断能力が衰えた本人の配偶者(妻や夫)や、子供たちにお願いすることができ、本人より後見人等が先に逝く心配は少ないですよね。
しかし、知的障がい、精神障がいなどの場合は、早い段階から判断能力についてのサポートが必要で、それはもっぱら、後見制度を利用する、しないに関わらず、本人より高齢である親が、本人をサポートすることになります。
ここで心配になるのは、その親が亡くなったあと、誰がその本人を引き続きサポートしてくれるのか、という問題です。
後見制度の利用で、この心配をできるだけ解消、もしくは軽減するにはどのようにすればよいのでしょうか。
ここでは、本来であれば、判断能力や意思能力が無いのであれば、その時点で後見制度の利用をするべきですが、そのような建前はさておき、親のサポートが適正に行われているなかで、将来に備えて成年後見制度を利用するという状況で考えてみます。
1、子が成人している場合で
ア)子に意思能力がある
子(後見人等が必要な本人)と、親以外の後見人候補者とで任意後見契約を結んでおく。
イ)子に意思能力がない
2、子が未成年の場合で
ア)子に意思能力がある
親の同意を得て、子と後見人候補者とで任意後見契約を結んでおく。
または、親が子を代理して、後見人候補者と後見契約を結んでおく。
イ)子に意思能力がない
親が子を代理して、後見人候補者と後見契約を結んでおく。
※成年後見で問題になるのは「判断能力」ですが、契約行為で問題になるのは「意思能力」となります。
任意後見は契約となりますので、契約行為ができるかどうかの意思能力の有無が重要になります。
意思能力は、判断能力の一部と理解されているので、判断能力を欠くからといって、意思能力を欠くかどうかは別問題になります。
何が違うんだと言われると、ちょっと困るのですが、専門用語をきちんと使うと、成年後見制度の利用の必要性は判断能力の有無、任意後見契約を自分でできるかどうかは意思能力の有無で考えなければならないということになっています。
いずれの方法をとるにせよ、親が生きているうちに、後見人候補者と親とで、子のサポートを開始しておき、親が亡くなった後の憂いを払しょくしておく必要があると思います。
また、任意後見では、任意後見を開始する前に、財産管理委任契約によって、財産の管理を後見人候補者に始めてもらっておくこともできますので、その利用も併せて検討します。
親と後見人候補者とで、共同で後見人をする、親が成年後見監督人になるなどのやり方も考えられますが、それは、子が成人している場合にしか検討できないと考えられます。
なぜなら、親が同意、代理をする場合は、親が子と親と両方の立場で契約をまとめてしまうことになり、それは法律上、認められないからです。
どうしてもそのようなやり方を取りたい場合は、特別代理人(任意後見契約の代理に関してのみの、親以外の代理人)に手伝ってもらうことについて、家庭裁判所に相談しておいてください。